【MICHELIN Talk】

2015年6月18日

MICHELIN Talk Vol.1──レーシングタイヤと市販の乗用車用タイヤはどう違う?

  • 筆/山田弘樹(モータージャーナリスト)
  • 解説/小田島広明(日本ミシュランタイヤ株式会社 モータースポーツマネージャー)

  

日本ミシュランタイヤウェブサイト「モータースポーツレポート」の新コンテンツ"MICHELIN Talk"。このコラムではSUPER GTという舞台におけるミシュランの活動を通して、タイヤに関する様々な疑問にお答えしてまいります。

  

その第1回目で取り上げるテーマは「レーシングタイヤと市販の乗用車用タイヤの一番大きな違いは何か?」です。

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「レーシングタイヤ」と聞いて皆さんが真っ先に想像されるのは、タイヤの表面に溝(グルーブ)がないゴムのかたまりのようなタイヤ、つまり「スリックタイヤ」ではないでしょうか? そして皆さんの多くは、このスリックタイヤをはじめとしたレーシングタイヤのことを、市販されている乗用車用タイヤとは"まったくの別物"と思っていらっしゃるのではないでしょうか?

  

しかし、実際はそうではありません。レーシングタイヤの構造は市販の乗用車用タイヤとほぼ同じ。つまり、路面と接するゴム製のトレッド部の下にはトレッド部に剛性を与えるベルトがあり、さらにその下には繊維状のコードによって形成された「カーカス」と呼ばれるタイヤの骨格となる部分が同じようにあります。また、レーシングタイヤでもウェットコンディション用のレインタイヤであればトレッド部に溝が刻まれていて市販の乗用車用タイヤと同じようなトレッドパターンを持っています。

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では、レーシングタイヤと市販の乗用車用タイヤでは何が違うのでしょうか?

日本ミシュランタイヤの小田島広明モータースポーツマネージャーに解説してもらいます。

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■運動性能が飛び抜けて高いタイヤ。それがレーシングタイヤ

「市販の乗用車用タイヤというのは、文字どおり普通の乗用車に装着されて一般公道を走るためのタイヤですから、実に広い範囲の路面状況や気候に対応できるように作られています。また、それぞれの国のルール(工業規格)を守って作られているという点も市販タイヤの大事なところです。ルールの中にはサイズ、荷重、スピードなどの取り決めがあります。これらを守った上で、快適性、低燃費性、スポーツ性といったタイヤのキャラクターがつけられていくのです。もちろん、どんな車に装着しても、どんな方が運転しても安心して使っていただけるタイヤでなければなりません。

 それに対してレーシングタイヤはかなり自由に作ることができます。もちろんレースのレギュレーションはありますし、求められる性能要件によるいろいろな条件はありますが、レース開催時に予想される気候(主に路面温度)に対してピンポイントに作り込んでいくことができ、使用するゴムや構造をドライバーと車両の特性に合わせて専用に組み合わせることも可能です。その代わり、運動性能は飛び抜けて高くなければいけません。無論、安全性を犠牲にしない範囲での話です。

 安全性をきちんと確保した上で、圧倒的に高い運動性能を備えていること。それがレーシングタイヤの絶対条件なのです」

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■目的に対して純粋に。溝がないのは......必要ないから!

「スリックタイヤには溝がありません。なぜなら、雨の中では使わないからです。そうしたコンディションこそレインタイヤの出番です。スリックタイヤと同じくレインタイヤもレース専用品ですが、こちらにはきちんと溝があります。

 一方、一般公道では天候が変わったからといってその都度タイヤを別な種類のものに交換したりはしませんよね? だから市販の乗用車用タイヤには排水のための溝がはじめからついているのです。もっと言えば、市販の乗用車用タイヤは別なクルマに取り付けられても同等の性能を出せるものでなければなりません。そうしたタイヤを実現させるにはとても高い技術が必要です。しかし、それができた上ではじめて、燃費や耐久性、乗り心地といったところを追求していくことができるのです」

  

──安全のために様々な性能を全方位的にカバーしなければならないという意味では、市販の乗用車用タイヤにはレーシングタイヤ以上に厳しい条件が課されていると言えるわけですね?

「そのとおりです。ただし、それは快適性という意味ではありません。我々はそれを『ドライバビリティ(運転しやすさ)』と表現しています」

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「タイヤにドライバビリティがないと、レースでもラップタイムが安定しません。そしてこの考え方は、市販の乗用車用タイヤの開発にもきちんと受け継がれています。さまざまなシチュエーションで安定して走ることができるタイヤは、ドライバーが気持ちいいと感じることができるタイヤなんです」

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■使い終わりのときの性能低下の在り方に大きな違いが

「あえて極端な表現を使いますと、レーシングタイヤは予選と決勝の距離だけもてばいいのです。ゴールした瞬間にその性能を使い切っている、というくらいがレーシングタイヤの使い方の究極的な理想です。その代わり、圧倒的に高い運動性能をレース中は安定して発揮し続けるものでなければならないのです。

 一般のユーザーが使用される乗用車用タイヤはそうはいきません。『そろそろタイヤを交換しないと......』とユーザーが感じてから実際にタイヤ交換を行われるまでにはいくらか間があり、それなりの距離を走られるのが大概のケースだろうと思います。したがって、実際にタイヤが新品に交換されるまでは、まだクルマに取り付けられるタイヤが十分な安全性を発揮し続けなければなりません。つまり、性能低下があるにしても、それは穏やかなものでなければならないわけです。

 そうした観点で見ると、レーシングタイヤと市販の乗用車用タイヤの大きな違いのひとつは、使い始めから使い終わりまでの長さと、使い終わりのときの性能低下の在り方にあると言うことができると思います」

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ちなみに、日本における市販の乗用車用タイヤの使用期間は、1セットあたりおおよそ3〜4年というところです。その間に乗用車用タイヤはいくつもの季節の移り変わりを経ることになります。よって、タイヤの交換理由も摩耗より劣化による割合の方が大きいというデータがあります。こうしたことを考慮しながらご自身の使用状況に合わせてタイヤを選べば、今まで以上に安全で、快適で、そして経済的に自動車との生活を送れるのではないでしょうか。

  

レーシングタイヤは一定の条件下における運動性能に特化したタイヤです。対して市販の乗用車用タイヤは、幅広い使用条件の中で、使い始めから使い終わりまで安定した性能を発揮するタイヤだと言うことができます。

ただし、『ドライバビリティ(運転しやすさ)』を大事に考えているという点ではレーシングタイヤも市販の乗用車用タイヤも同じ。さらに言えば、用途に応じて特に重視する性能・キャラクターは異なってきますが、その上で、すべての性能を向上させ高いレベルでバランスさせることを何よりも重んじるのがミシュランの流儀、つまり「ミシュラン・トータル・パフォーマンス」の理念です。

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ある性能を向上させたなら、他の主立った性能の向上も同時に図ること──。

ミシュランはすべての性能を追求する「ミシュラン・トータル・パフォーマンス」の理念でレーシングタイヤの開発に臨み、そして皆さんがお使いになる乗用車用タイヤも同じ理念に基づきながら作り出しています。