【2015】

2015年6月20日

ル・マン2015総括:ミシュランタイヤ、史上最高レベルの高速&高負荷決戦を制す

今年のル・マン24時間は極めて高度なハイスピードレースとなりました。予選で刻まれたポールポジションタイムと決勝レース中のファステストラップタイムはどちらも昨年大会のものより約5秒も速く、優勝クルーの24時間レースにおける走行距離は395周=5383.455kmに達しました。

一方、レギュレーションに基づくタイヤのサイズは昨年と変わりありませんでした。それにもかかわらず走行ペースが大幅に跳ね上がった戦いをミシュランタイヤは確かなパフォーマンスと信頼性で支え抜き、ミシュランとしては通算24回目となるパートナーチームによる総合優勝を手にしました。

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今年で83回目の開催を迎えたル・マンは衝撃から幕を開けました。3回のセッションに分けて行われる公式予選の1回目のセッション開始早々、スイス人ドライバーのニール・ジャニが乗り込んだNo.18 ポルシェ 919ハイブリッドが3分16秒887という驚異的なタイムを叩き出してきたのです。昨年大会の予選最速タイムは3分21秒789でしたから、実に4.902秒もの短縮が一気に果たされた格好でした。そしてジャニがマークしたこのタイムを上回る車両が現れることはなく、No.18 ポルシェ 919ハイブリッドが今大会のポールポジションを手にしました。

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今年のル・マンが史上最高レベルの高速決戦であることは決勝レースを迎えても明らかでした。予選はポルシェ勢の独壇場でしたが、決勝に入るとアウディ勢がほぼ互角のペースで走ってきました。そしてポルシェ勢とアウディ勢は、周回遅れに過度に引っかかることがなければ昨年大会のポールポジションタイムを上回る3分20秒台で周回を重ねてしまうのでした。

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レースは、深夜の時間帯まではポルシェ勢とアウディ勢が24時間耐久とは思えぬハイペースの上で接戦を演じました。しかし、夜明けを迎えると王者アウディが立て続けにトラブルに襲われます。それに対して、ポルシェ 919ハイブリッドは大きなトラブルを出すことなく、WEC(FIA世界耐久選手権)シリーズの天王山でもあるこのル・マン24時間を戦い抜きました。

  
優勝はニコ・ヒュルケンベルグ/アール・バンバー/ニック・タンディの19号車が飾り、ティモ・ベルンハルト/マーク・ウェバー/ブレンドン・ハートレーの17号車が2位に。耐久レースのトップカテゴリーに復活して2年目のポルシェが、1998年大会を2台の911 GT1によって1-2フィニッシュを決めて以来となる総合優勝を再び1-2フィニッシュで手にしました。

なお、この勝利によってポルシェはル・マン24時間における自動車メーカーの最多総合優勝記録を更新し、通算17回目の総合優勝を飾りました。

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ル・マンでの連勝記録が「5」で途絶えることとなったアウディですが、2000年代に入ってから16回開催されたこの世界最高の耐久レースで13回も優勝を手にしてきた実力は今大会においてもしっかりと示しました。レースもスタートから20時間以上が経過したところで、No.7 アウディ R18 e-tronクワトロを駆るアンドレ・ロッテラーが3分17秒475という今回のレース中のファステストラップをマーク。2番時計を記録したのも僚友車の8号車で、タイヤに優しくレース本番で速いアウディの強さを印象づけました。

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■総エントリー台数:56台

  • LMP1クラス:14台(ミシュランタイヤ装着車:全車)
  • LMP2クラス:19台(ミシュランタイヤ装着車:4台)
  • LMGTE Proクラス:9台(ミシュランタイヤ装着車:全車)
  • LMGTE Amクラス:14台(ミシュランタイヤ装着車:13台)

■ミシュランタイヤ持ち込み総数:7000本

  • LMP1クラス:2500本(250本のハイブリッド・インターミディエイトタイヤを含む)
  • LMP2クラス:700本
  • LMGTE Pro/Amクラス:3800本

  

ル・マン24時間を第3戦とするWECシリーズは、タイヤに関してはワンメイクではなく、自由なタイヤ競争が歓迎されています。それでも今回のル・マンにおけるタイヤシェアの実情は、トップカテゴリーのLMP1クラスとGTカテゴリーのプロフェッショナルクラスであるLMGTE Proクラスでは全車がミシュランを選択し、LMGTE Amクラスでも出場14台中13台がミシュランタイヤを履くというものでした。

  

今大会に向けてミシュランが用意したレーシングタイヤの数はトータルで7000本。それらはミシュランの本社があるフランスはクレルモンフェランのカタルー工場でレースウィークの2カ月前から製造作業が進められてきたものでした。そして15台のトラックによってル・マンの現地に運ばれ、サーキットのパドックに特設された900平方メートルの倉庫に保管されました。

総数としての7000本は多いかもしれませんが、出場車両1台あたりに用意するタイヤの数はたとえば10年前などと比べれば各段に少なくなっています。それは、ひとつのタイヤがカバーできるコンディションが広がり、そして耐用距離が伸びたためで、かつてよりタイヤの種類も絶対数も大幅に削減できているからです。

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900平方メートルの倉庫に隣接する形で、800平方メートル確保されていたのがワークスペースです。その中には、タイヤのホイールへの組み付け→空気の注入→バランス取りという一連の作業を行うレーンが3列設けられ、50名のタイヤフィッターが作業にあたりました。

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その他、ミシュランタイヤを使用してレースを戦う各パートナーチームに技術的なアドバイスを行う25名のテクニカルスタッフと、実際に使用されたタイヤの状態などの分析にあたる15名のエンジニアがレースウィークを通じてル・マンの現地で活動しました。

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ちなみに、まったく同じ週末の地中海のサルディニア島では、ミシュランがすべての出場自動車メーカーのワークスチームに公式タイヤを一括供給しているWRC(FIA世界ラリー選手権)のラリー・イタリア・サルディニアが行われており、ミシュランとしては総力戦で臨んだ週末と言えました。

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■LMP1クラス用タイヤ種類

<ドライコンディション用>

  • 低温用ソフトタイヤ
  • 高温用ソフトタイヤ
  • 高温用ミディアムタイヤ

<ウェットコンディション用>

  • ハイブリッド・インターミディエイトタイヤ
  • ウェットタイヤ
  • フルウェットタイヤ

■LMP1クラス用タイヤサイズ:全種類 フロント用・リア用ともに 31/71-18

(※日産GT-R LMニスモ用リアタイヤのみ 20/71-16)

  

トップカテゴリーのLMP1クラス用にミシュランは上記の6種類のタイヤを用意していました。このうち、「ハイブリッド・インターミディエイトタイヤ」はトレッド面にグルーブ(溝)がないにもかかわらずある程度のウェットコンディションにも対応するミシュラン独自のレーシングタイヤです。

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ル・マン24時間においてもスリックタイヤに関しては使用本数の制限があります(逆に言えば、溝付きのレインタイヤに関しては使用本数の制限がありません)。

以下は今大会におけるLMP1クラスに関する数字ですが、レースウィークで最初の走行セッションであるフリープラクティスから、3回の予選セッション、そして決勝レース前のウォームアップ走行までの各セッションにおいて使えるスリックタイヤは7セット=28本まで、そして24時間の決勝レースにおいて使えるスリックタイヤは12セット=48本までとされていました。

ミシュランとしてはある程度の雨の中でも使える「ハイブリッド・インターミディエイトタイヤ」は<ウェットコンディション用>に分類するところですが、レギュレーションの観点からするとグルーブのない「ハイブリッド・インターミディエイトタイヤ」はスリックタイヤに分類され、その制限本数の中に含まれるものとなるのでした。

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ただし、今回のレースウィークの各走行セッションにおいて雨が降ることはほとんどなく、「ハイブリッド・インターミディエイトタイヤ」の出番はありませんでした。そして決勝におけるLMP1クラスの車両は全車がレースを通じて「高温用ソフトタイヤ」を使用しました。

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LMP1クラスは昨年、技術規則が大きく変わりました。タイヤの規定サイズも変更され、タイヤをホイールに組み込んだいわゆる"コンプリートホイール"の状態で、一昨年までは16インチであった最大幅が14インチへと細くされ、最大径も28.5インチから28インチへと縮小されました。

それにともなってミシュランのLMP1クラス用タイヤは、従来はフロントが幅36cm/外径71cm/内径18インチ、リアが幅37cm/外径71cm/内径18インチであったものが、昨年からフロント、リアともに幅31cm/外径71cm/内径18インチとなりました。つまり、フロントで5cm、リアで6cmも細くなったのでした。

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それにもかかわらず、昨年大会の予選では中嶋一貴が乗るトヨタ TS040ハイブリッドが従来のコースレコードを0.560秒短縮するラップタイムをマークしてポールポジションを獲得しました。そして今年の予選では、中嶋が記録したタイムをさらに4.902秒も一気に縮める3分16秒887という圧巻の新コースレコードがニール・ジャニのポルシェ 919ハイブリッドによって叩き出されたのでした。

また、決勝レース中のLMP1クラス各車のラップタイムも総じて昨年大会より速く、特にポルシェ勢やアウディ勢は昨年大会より3〜5秒も速いペースで周回していました。

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LMP1クラスのスピードアップは、昨年大きく変更された技術規則が今年で2年目を迎え、各自動車メーカーがより"攻めた"技術仕様としてきたことが一番の要因でした。具体的には、自動車メーカーのワークス車両に搭載が義務づけられているエネルギー回生システムの1周あたりの放出エネルギー量のレベルをポルシェとアウディが引き上げて実質的なパワーアップを果たし、そしてどの車両もエアロダイナミクスの進化を果たしてダウンフォースをさらに増大させてきたところにあります。

それでいて、タイヤに関しては昨年から細くなったサイズのままでした。つまり、サイズ由来のキャパシティについては従来と同じであるタイヤで、大幅に高まった負荷を受けとめなければならない状況となったのが今年のル・マンだったわけです。

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ミシュランの耐久レースプログラムマネージャーであるジェローム・モンダンは次のように語っています。

「同じLMP1クラスの車両でも、たとえば5年前のものと今年のものを比べると、特にダウンフォースの大きさは相当違います。その点への対応こそ、私たちがLMP1車両用のタイヤを開発する際に最も留意し、進化させているところです。5年前のル・マンで4スティント、場合によっては5スティントをこなせたタイヤであっても、今日のLMP1車両に履かせて走らせれば2スティント行けるかどうかというのが本当のところです。それがLMP1クラスの車両の進化であり、それを先読みして進化させている私たちミシュランのLMP1クラス用タイヤの開発なのです」

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なお、今回のル・マン24時間におけるLMP1クラスの各車は1スティントを基本的に13〜14周としていました。つまり1スティントの走行距離は177.177〜190.806kmです。1スティントこなすたびにピットストップを行って給油するわけですが、タイヤは少なくても3スティント、基本的には4スティントを立て続けにこなしたところでの交換となります。つまり、ラップタイムを犠牲にすることなく750km前後は1セットでこなせる性能が現在のLMP1用タイヤに求められているわけです。

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しかしながら、今年のル・マンでは昨年大会と比べても飛躍的に走行ペースが上がり、タイヤにかかる負荷も高まっていました。そうした中でも、LMP1クラスのすべての自動車メーカーのワークスチームから選択されたミシュランタイヤは1セットによる連続4スティントの走行をしっかりとこなし、各パートナーチームが描いていた各々のレース戦略を力強く下支えしたのでした。

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