【2015】

2015年9月 9日

スペシャルステージ前の最後のファインチューニング 「タイヤローテーション」とは?

もしあなたがラリー観戦に出かけられたとしても"その作業"の様子を目にすることはないかもしれません。なぜならそれはスペシャルステージやサービスパークではなく、ステージとステージの間のリエゾン(つなぎの区間=移動区間)のどこかで行われているものだからです。

"その作業"とはタイヤのローテーションです。と言っても、ただタイヤを入れ替えるだけのことではありません。それは、ラリーに出場するドライバーとコ・ドライバーのコンビがこれから挑むスペシャルステージを前に自らの手で行うことができる最後のファインチューニングと言えるものなのです。

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■なぜローテーションなのか? まずはラリーの仕組みのおさらいから
  
WRC(FIA世界ラリー選手権)を頂点とするスプリントラリー競技は、出場車両が全開走行でタイムアタックを行う「スペシャルステージ」が何本か続けて実施され、その後、車両の整備などが行われる「サービス」に入り、そしてまた数本のステージが行われる......という構成になっています。
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また、FIA(国際自動車連盟)公認の国際ラリーでは、サービスとサービスの間に行われるスペシャルステージの合計距離は長くても80km程度の行程とすることが定められています。そして、ラリー競技において新品タイヤへの換装を行うことができるのは原則的にサービスのときだけ。したがってラリーカーは次のサービスまでの各ステージにおけるタイムアタックとリエゾンの走行を、先のサービスで装備した5本ないし6本(車両装着4本+スペア1本ないし2本)のタイヤでこなさなければならないのです。
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スペシャルステージのコース特性(路面の種類やタイヤへの攻撃性、地形、コーナーの種類の傾向など)はそれぞれ異なります。そして、仮にサービスを出てから臨む数本のステージすべてでタイヤのことを気にせずに全開ドライビングを続ければ、かなりの確率でタイヤの能力を早々に使い切ってしまい、勝敗に大きな影響を及ぼすタイムダウンを喫することになるでしょう。そのため各エントラントは、サービスとサービスの間の数本のステージにおいても"守る"ところと"攻める"ところを分け、緩急をつけた戦略を立てて臨む必要があるのです。
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詰まるところ、車両が装備する5本ないし6本のタイヤを次のサービスを迎えるまでにいかに使うかが問題なのです。理想は、次のサービスの手前のスペシャルステージも依然として高いパフォーマンスを発揮し得る状態のタイヤで走り、そこでタイヤの能力を使い切ること。そのために不可欠なのが、次のステージを走る前に行うタイヤのローテーションなのです。
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■作業にあたれるのはドライバーとコ・ドライバーと車載工具だけ
  
この作業が行われるのは次のスペシャルステージへと向かうリエゾンの"どこか"です。そのための地点が公式に定められているわけではありません。大概の場合は、次のステージの入口に設けられたタイムコントロールの手前のやや広めの路肩や駐車スペースなどがその作業エリアとなります。
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あくまでリエゾン内で行われるものですから、その作業時間もリエゾンの時間の中に収めなければなりません。もし、ローテーション作業に問題などがあって長い時間を要し、次のスペシャルステージの入口のタイムコントロールに入るのが遅れてしまうと、チェックイン指定時刻に1分遅れるごとに10秒のペナルティタイムが加算されてしまいます。
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そして、サービス以外のラリーの競技時間内でのことですから、ローテーション作業はドライバーとコ・ドライバーのふたりだけで行わなければならず、第三者の手助けを受けることは許されません。それは道具についても同様で、すべての作業は車両に搭載されているものだけを使って行わなければならないことになっています。
MICHELIN_2015_WRC_Tips_rotation_09.JPG※ ワールドラリーカー各車は各ワークスチーム独自の油圧ジャッキを使用しています。スペシャルステージの途中でタイヤ交換を行うこともあるため、不整地でもジャッキアップできるように非常に長い足になっており、それでいてコンパクトに収納できる設計となっています。
  
  
マシンを停め、ドライバーとコ・ドライバーが素早く車外に出ると、ひとりは車両のジャッキアップ作業を行い、もうひとりは車載しているスペアタイヤを取り出し車両の下に入れてジャッキが外れたりする場合に備えます。そしてインパクトレンチを使ってロックナットを緩めてタイヤを外し、別なタイヤにつけ替えます。これが前後左右の4輪分、一気に行われるのです。
MICHELIN_2015_WRC_Tips_rotation_10.jpgホイールのロックナットを緩めたり締めたりする作業はコードレスの電動インパクトレンチで行います。2kg弱はある工具のため、車両における搭載位置も重量バランスを考慮して決定されています。
  
  
こうした一連の作業を各ドライバー&コ・ドライバーは長めのスペシャルステージや勝負所となるステージが来るたびに行います。地道であり、かなりの仕事量となりますが、タイヤが高いパフォーマンスを発揮する状態で走り続けられるようにするためには決しておろそかにすることはできません。
  
    

■タイヤの高い能力をいかに長く発揮させ、いかに使い切るか
  
どのタイヤをどの車輪として使うかは各タイヤの摩耗状態などによって異なります。基本は、後輪より仕事量が多い前輪に装着されていたタイヤをリアに取り付け、後輪についていたタイヤを前輪へ......というローテーションです。そして、次のスペシャルステージは右コーナーが多いのであれば左輪に摩耗が比較的進んでいない方のタイヤを配する......といった判断も利かせます。
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車両装着の4本だけでなく、車載している1本ないし2本のスペアタイヤもローテーションの対象となります。ただし、サービスにおいて一度に入れ替えることのできる新品タイヤの本数は4本までと規定されていることから、そのとき搭載しているスペアタイヤは新品とは限らないという難しさがあります。
さらには、どのWRC公式タイヤサプライヤーも2種類のコンパウンドを各ラリーに用意しており、車両が装備する5本ないし6本のタイヤのコンパウンドをどういった内訳としてきたかによっても、ローテーションの際にどのタイヤを前後左右どの車輪にあてがうかという判断が違ってくることになります。
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タイヤをローテーションさせた後は個々のタイヤの空気圧の調整を必ず行います。空気圧によってタイヤのパフォーマンスは大きく変わりますから、次のスペシャルステージの路面のタイヤへの攻撃性やそのステージをどの程度攻めていくかという戦略によっても空気圧の設定値は変わってきます。そして、このタイヤの空気圧の調整こそが次のステージを前にしたまさに最後のファインチューニングとなるのです。
MICHELIN_2015_WRC_Tips_rotation_13.jpgローテーション後のタイヤは次なるスペシャルステージに合わせた内圧に調整されます。そのためのエアゲージは軽量なプラスチック製が主流ですが、各クルーはお気に入りの品をそれぞれ使用しています。なお、写真で右手に握られているのはエア充填用の小型ボンベです。
  
  
闇雲に突っ走るだけではダメなのはラリーもサーキットレースも同じです。ただし、レース中であってもピットに入ってタイヤを交換するという策が採れるサーキットレースとは違って(もちろん大幅なタイムロスは不可避ですが)、ラリーでは次のサービスを迎えるまでは何があろうと手持ちのタイヤで走らなければなりません。

  
そこで問われるのは、車両装備のタイヤの高いパフォーマンスをいかに長く発揮させ、いかに使い切るか。こうした考え方や手段は、おいそれと新品に交換できるわけではない一般走行用の市販タイヤの生かし方にも通じるものがあると言えるのではないでしょうか。

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